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2023-12

SS「夜ふかし」 - 2012.04.10 Tue

本編とは関係無いですが、折角書いたのでぽいと。
本編で使おうとは思っていたんですけれど、何か出す機会も無いだろうなと思いました。


[ 自動書記文箭の述懐 ]

己がそれに行き逢ったのは、夏も終息に向かう盆の過ぎ。
岡山県某所の畦道にて、深夜、虫の声を受けながら、彼は呆然と座っていた。
呆然と、というのは、己の主観的観測である。ただただ座っている丈に見えたので、そのように形容した。
実際は、彼は何かをしていたのかもしれない。
彼は黒い人であった。全身を黒で包み肌も黒い。顔の中にある白目だけが、真夜中に彼の存在を知らしめていた。ぷかぷかと、黒い煙管から黒い煙を燻らせて、そこに座っている。

己は彼に話しかけようかどうか悩んだが、碌でもないモノであったら堪らないので、足早にそこを通り過ぎようとした。
するとどうだろう、「そこの君」と穏やかな声音が背中を刺した。
己は振り返り、彼を見る。白目と黒目。それが己を向いている。

「ちょっと待たないかい。話でもしようじゃないか。丁度暇をしていたんだ」

捕まってしまってはどうしようもない。己は素直に彼の横に座り、その顔を見た。真っ黒な顔がにこにこと笑っている。

「君、俺を不思議な人だと思ったろう」
「はい。真っ黒な御方だと」
「その通りだ、違いない。俺は真っ黒だ。だが、それ丈だと思うかい?」
「どういう意味です」
「こんな時間に、田舎の畦道にたった一人で座っている。俺は唯の人だと思えるか?」
「いいえ、思いません。ですから、通り過ぎようとしたのです」
「違いない、君の判断は正しい」

それだけ言うと、彼は煙管をふかした。煙管からは何のにおいもしない。
己はじっと彼の手元を見つめて、それから、彼に何をしているのかと問うた。
「いい質問だ」と彼は言う。煙管を、すいと己の前に出して、歯を見せた。歯も真っ黒だった。

「俺は夜をふかしているのさ」

己は首を傾げた。夜をふかすというのは、どういう事か。

「夜をふかすとは、夜更かしという事と違い無いのですか」
「ああ、そうさ。よふかし。夜をふかす。それだけの怪異だ」
「君は一体、どういったモノなんです」
「唯一人、こうして田舎の畦道で、夜をふかす。それだけ、それだけ」

ぷかり。黒い煙が黒い背景に溶けた。この煙管から出ているのは、夜なのか。
もしかすると、こうして黒い背景ができあがるのは、彼が夜をふかしているからなのか。一体全体、彼の言う事が分からない。夜ふかしというのは、何なのか。それが分からぬ儘、己は畦道にて朝を迎えた。
結局、己は彼に騙されて、夜を更かしてしまったのである。




-  -  -  -  -  -

夜更かし と 夜深し、それと煙管でふかすというのを掛けています。
こういう、怪奇譚形式は偽島1期の頃にやっていました。
文箭は各地を旅してまわっていて、怪奇現象に行き会う事も多い。
またこういう形式のものが書けるなーと思っています。でも出す機会が今のところ無いね!
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● COMMENT ●

素敵です!&ちょっと報告

ううーん・・・すばらしい書き方と感動してしまいます。こんにちはミルリトンです。
GW?混みこみでへとへとですよー!
というのは置いといて・・・
実はようやくブログ&小説開設にいたりました(パチパチ
駄文ですが読んでいただくとうれしいです・・というか鼻からトマトジュースだして喜びます(こら

花粉はおわったけど今度は暑さにとろけそうなリトンでした。


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